【取材日記】集い広場へいさん(旧平三小学校)
更新日:2023年09月08日
お知らせ
今回、取材で訪ねたのは「集い広場へいさん」。
南総地区の平蔵にある旧平三小学校が活動拠点です。
明治9年創立、平蔵、米原、小草畑の3つの学校が統合し平三小学校となり140年以上の長きに亘り地域に愛されてきた学校ですが、少子化による児童減少に伴い、6名の在校児童に見守られて歴史に幕を閉じたのは平成28年3月のこと。
昭和30~40年代には1,400人いた地域の人口は、現在約800人。高校生まで含めても、子どもの数は10人ほど。65歳以上の高齢者が50%を越える限界集落です。
当初、地域の宝である学校の閉校に反対していた人も、地区の子ども達の未来のために、と学校の建物を残すことを条件に閉校に同意。そして、閉校と同時に校舎管理と利活用を検討する「旧平三小学校維持管理委員会」が立ち上がりました。
会員は、地区民全員。まさに、地域総出で学校の未来を考える会が生まれたのです。
学校の活用案については、全会員を対象にアンケートを実施し、民間への譲渡も視野に入れて広く議論されましたが、愛着ある校舎を今後も地域住民の交流の場として利用しつつ、都心からのアクセスの良さも生かした里山体験事業を展開することで都市部の住民との交流拠点にしたいと、管理委員会の名称を令和元年7月に「集い広場へいさん」に改め、学校の維持管理に加え親子で楽しめる里山活動の実施にも力を入れています。
会員の熱意と誠意を大切にし、集い繫げていく会でありたいと、「Team Heisans」のポロシャツも300枚製作し、想いを一つに日々、活動に励んでいらっしゃいます。
この日、お話を伺ったのは会長の鳥海哲男さんと、事務局長の鳥海敏博さん、そして局長代理のサワガニさん!
この可愛らしいサワガニは、旧平三小学校の魅力を最も的確に伝えることが出来る観光大使でもあるのです。
皆さん、学校の校庭の下に川が流れている、と言ったら信じますか!?
左の写真は小学校の入口から臨む平蔵川。本来の流れは写真右側の竹藪に沿って学校を迂回していたそうですが、川廻し(房総丘陵の河川に多く見られる独特の地形。蛇行する川のU字部の上部を切り拓き流れを短縮する工法で、流れを直線にすることで洪水対策をしたり、川の跡地を農地に転用したりすることを目的に江戸から明治にかけて多く行われた)により校庭の下に川が流れるようになったそうです。
川廻し後の流れを見るため、校舎の横手から、メンバー手作りの階段を下りて川辺を目指したのですが、長く放置されていた土地は竹に覆われ、誰も足を踏み入れることが出来ないほど荒れ果てていたそうです。
"子どもの頃、毎日のように釣りや水遊びで親しんだ故郷の川の原風景を取り戻し、子や孫たちが誇れる場所にしたい。"
時代の流れとはいえ、先祖が何百年と守り続けてきた土地から自分たちの都合で子ども達を地域外に出し、過疎化による地域の荒廃を招いてしまったが、自分たちがこの世からいなくなった後も、この地域を故郷と想い、心を寄せる人がいる。
だからこそ、川の整備も、学校を守ることも、自分たちがやらなければならない。子や孫に地域の財産を繋いでいくのが自分たちの役目であり、恩返しなのだと話してくださった会長さんの言葉に、胸を打たれました。
地域の方々や協力者の力添えもあり、数年がかりで整備した遊歩道の先にあったのは、まるで山深い秘境に迷い込んだかのような、不思議な景色。
取材日は、梅雨の長雨が続いていたこともあり、増水し濁った水が勢いよく流れていましたが、普段は澄んだ水が流れる穏やかな川なのだとか。
こちらが、普段の川の様子。局長代理のサワガニさんも、この川辺から出勤です!
会長さんが立つ場所が、かつての川床。今は山からの絞り水で濡れていますが、夏にはほどんど水気がなくなるそうです。
人力で、多くの方が長い時間をかけて掘り抜いたトンネルは、まさに地域の歴史を物語る"宝"。
事故防止のため、許可なく川周辺に立ち入ることは出来ませんが、集い広場が企画する遊びイベントでは釣りや水遊びが楽しめるよう、現在準備を進めているそうです。
マイナスイオンたっぷりの自然の中で遊べるようになると思うと、わくわくしますね!
旧平三小学校の魅力は、川だけではありません。もう一つ、この学校にしかない宝物があるのです。
それが、こちらの平山窯。今は陶芸同好会の皆さんが「平蔵窯」として管理しています。
陶芸家から寄贈された窯は、児童が授業で陶芸を学ぶだけでなく、地域の方にも開放されています。
平三小学校の卒業生は、もれなく陶芸家!
今も、体育館へ続く渡り廊下には子ども達の制作したレリーフが飾られ、訪れる人を迎えてくれます。
直近では、千葉市自然学校と連携してキャンプも実施されたそうです。
人と自然が織りなす美しい里山風景を楽しみながら、経験豊かな大人に見守られて自分で考え、行動することを大切にしたキャンプは、自然に触れる機会が少なくなってしまった子ども達にとっても、親達にとっても、日常では得られない素晴らしい体験の場となったのではないでしょうか。
また、旧平三小学校は市原市が取り組むアートによる地域活性化施策として、2014年から3年に一度開催している芸術祭の会場にもなっています。
第3回となる「房総里山芸術祭いちはらアート×ミックス2020」は、本来であればこの春に開催される予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されたため、2021年3月20日(土)~5月16日(日)に延期されました。
桜や菜の花が咲き乱れる春には、国内以外から多くの方がこの地に訪れます。
里山を舞台に繰り広げられる"アートの祭典"を楽しみに訪れる皆さんに地域の魅力を知っていただくことで、芸術祭後も訪れたくなる心の故郷を目指し、旧平三小学校での活動メニューを次々と開発中の「集い広場へいさん」の皆さん。
素晴らしい地域に住んでいるのだと地域の方々に気付いてもらえることが、地域活性化。
人にとって最も大切なもの、目に見えないものを残したい。
その想いを胸に、地域の未来を見据え、活動に励む「集い広場へいさん」の今後の活躍が、ますます楽しみとなりました。
旧平三小学校(千葉県市原市平蔵808)
集い広場へいさん